2018年8月18日 土曜日

鳥海山

2,236 m

 5時過ぎに起床、5時50分登山開始。朝起きた時には小雨が降っており、出発後も曇天で霧も出ていたのでどうなることかと思ったが、時間とともに青空が広がって天気予報どおりに登山日和の1日となった。なだらかに続く高原台地のような草地の裾野に鳥海山の秀麗な山容を実感したが、山頂部は荒々しい岩ゴロのガレ場となっており、そのギャップに驚かされた。火口湖周辺の静かな景観や開放感あふれる外輪山の稜線など、歩くほどに感じられる多様な楽しみは東北第一の名峰にふさわしいものだった。高山植物は残り少なくなっていたが、チョウカイフスマとチョウカイアザミを見られたし、うるさい虫もいなくて存分に山歩きを楽しめた。

 前夜は長時間運転の上に2時間ほどの仮眠しかとっていなかったので、下山時にはかなりの疲労を感じた。その後、日帰り温泉に寄ってから月山8合目登山口へ向かったが、疲労度は限界に近く、長くつらい移動となった。

登山コースデータ
単純標高差 : 1,086 m
累積標高差 : 1,375 m
コース距離 : 16.2 km
標準コースタイム : 10 時間
歩行データ
総歩行時間 : 10 時間
総行動時間 : 11 時間 45 分

 コースタイム

鉾立(象潟)登山口P 5:50 ⇒ 賽ノ河原 7:15 ⇒ 7:50 御浜小屋(神社) 8:00 ⇒ 七五三掛 8:50 ⇒ 御室小屋 10:35 ⇒ 11:05 鳥海山(新山) 12:15 ⇒ 12:55 七高山 13:10 ⇒ 伏拝岳 14:00 ⇒ 14:35 文殊岳 14:45 ⇒ 七五三掛 15:15 ⇒ 御浜小屋(神社) 16:00 ⇒ 賽ノ河原 16:25 ⇒ 鉾立(象潟)登山口P 17:35

5:20 鉾立登山口駐車場

前夜20時に自宅を出て、2時過ぎに鉾立(象潟)登山口駐車場に到着。着いた時は停める場所が分からないほど濃い霧が出ていた。しばらく右往左往してから登山者専用駐車場に車を止めて、そのまま車中泊。暑さで寝苦しい夜を覚悟していたが、思いのほか涼しくて、毛布だけでは足りずに夜中に寝袋を出した。静かな夜だったがなかなか寝付けず、2時間ほどしか仮眠を取れなかった。5:20 目が覚めると外は小雨。軽く朝食をとって身支度を整えてているうちに雨は上がったが、どんよりとした曇り空で霧も出ており、周囲は真っ白だった。

5:50 登山開始。登山者専用駐車場は少し下にあるのだが、一般の駐車場にも登山者が普通に車を停めていた。

登山口に入るとしばらく石畳の道が続いた。登り始めてすぐの展望台は霧で何も見えなかった。

キク科のヨツバヒヨドリ。

周囲は真っ白。晴れの天気予報を信じて山形まで来たが、これで晴れるのかと、少々不安を感じていた。

扇子森付近に群生していたキク科トウヒレン属のオクキタアザミ。アザミと名がつくがトウヒレンの仲間で、葉の鋸歯が浅くて棘がない。何の花か調べがなかなかつかなかったが、鳥海山や焼石岳など限られた地域でのみ咲く花らしい。

鳥海山の固有種、チョウカイアザミ。花は下向きで、大ぶりで黒々しているのでよく目立つ。

霧が流され、森林限界を超えた広々とした場所にいると分かった。山道脇を注意して歩くと、高山植物がまだけっこう残っていた。

ユリ科のニッコウキスゲ。西側の斜面に群生していたが、へたり気味のみのが多く、もう終わりかけのようだった。

ヨツバシオガマ。こちらも花弁が落ちたものがほとんどで、花が残っているものは数えるほどだった。

数か所で見かけたツツジ科の落葉小低木、ミヤマホツヅジ。

水場に咲いていたミツガシワ科のイワギキョウ。

7:15 6合目にあたる賽ノ河原を通過。

ユリ科のコバギボウシ。

バラ科のシロバナトウウチソウ。

こちらはウゴアザミ。花が上向きで、鋸歯がそれほど深くない。

ユリ科のイワショウブ。

群生していたキンコウカ。

道は再び石畳となり、なだらかに上っていく。7時半を回って、少し空が明るくなってきた。

7:50 7合目 (標高1,700m) 御浜小屋 (神社) 

御浜小屋に到着。ここで吹浦口(ふくらぐち)ルート、長坂道と合流する。

宿泊施設や売店などが神社と併設されており、運営は出羽国一之宮・鳥海山大物忌(おおものいみ)神社。

御浜小屋の南側で休憩していると、霧に霞んでいた鳥海湖が、眼下にくっきり見えてきた。鳥海湖は15万年前に始まった西鳥海の火山活動で誕生したカルデラ湖で、直径約200mで深さは約4m。湖面の標高は1,575mで、一帯は高山植物の群生地となっている。

8:00 御浜小屋を出発。周囲の霧もみるみる晴れて、扇子森に向かう斜面も見えてきた。

あっという間に青空が広がって、周囲の景色が一変した。これは大丈夫だと一気にテンションが上がった。

しばらく上って御浜小屋を振り返る。庄内平野と日本海も見えてきた。

北側に見えた外輪山のひとつ、稲倉岳。地図にルートはないが、以前は御浜からキレット状の蟻の戸渡りを経由して稲倉岳に至る登山道があったらしい。

秋田側の海岸線も見えてきた。それほど暑くなくて、登山にはちょうどよい位の気温だった。

南西側には鳥海湖。湖のすぐ右上の鍋を伏せたような溶岩ドームが鍋森で、その右奥が笙ヶ岳。左に見えるのは月山森で、扇子森を含めた一帯が西鳥海火山と呼ばれている。ちなみに東鳥海火山は、主峰の新山と周囲の外輪山を指す。

なだらかな扇子森(1,759m)の山頂部までくると、鳥海山の主峰・新山と外輪山が見えてきた。

ベンケイソウ科のホソバイワベンケイ。

正面に鳥海山を仰ぎ見ながら、御田ヶ原をいったん下っていく。

群生するキキョウ科のハクサンシャジン。意外と花が残っていたので、固有種のチョウカイフスマも見られるかもと期待がふくらんだ。

8:25 鳥海湖の南岸からくる道と合流する鞍部の御田ヶ原分岐を通過。平坦な草地から上りにかかる。

道標に八丁坂と書かれた傾斜を上る。

タデ科のオンタデ。

ときおり立ち止まって周囲を見渡す。西鳥海火山の先に庄内平野と日本海が広がる。

八丁坂あたりから追いついてくる登山者の数が増えてきた。日帰りするには早出の必要があるが、皆健脚です。

ハイキング的なコースから、徐々に登山コースという雰囲気になってきた。

8:50 標高1,800mの七五三掛(しめかけ)に到着。千蛇谷コースと外輪山コースの分岐点だが、千蛇谷方面の登山道がすぐ先で風化のために通行止となっているので、外輪山コースを少し上った分岐から千蛇谷コースへ入る。

外輪山コースの急登をしばらく進む。

背後に歩いてきた西鳥海登山側の登山コースが一望できた。

10分ほどで分岐に到着。左側の千蛇谷コースに入り、いったん千蛇谷へ下りていく。

九十九折に雪渓まで下り、そこからまた上り返していく。正面には新山がそびえる。

新山と外輪山に挟まれた千蛇谷の草地を進む。

葉の表面に黒点が見られないので、イワオトギリではなくシナノオトギリだろうか。

新山の南側を巻くように千蛇谷を進む。大きな岩ゴロが目立つようになってきた。

右手の南側には外輪山が屏風のようにそびえる。行者岳から伏拝岳(ふしおがみだけ)あたり。

文殊岳あたりの外輪山。新山側が大きく崩落しているのがわかる。

足場の少し悪い岩ゴロを上りつめていく。

キク科のミヤマアキノキリンソウ。

キク科のヤマハハコ。

千蛇谷から標高を上げるごとに景色もよくなる。扇子森と御浜が遥かに遠い。

山頂部に近づくと草地からガレガレの岩場となった。新山がガレ岩の積み重なりであると分かり、少々驚いた。

10:35 御室に到着。下からはまったく見えないので、唐突に建物が現れた印象だった。御室には大物忌神(おおものいみのかみ)を祀った大物忌神社の山頂本殿があり、頂上参籠所(さんろうじょ)として150名の宿泊施設がある。ここも鳥海山大物忌神社の運営。

御室から眺める南側の外輪山。稜線を歩く登山者の姿が点々と見えていた。

西側の西鳥海火山方面。日本海がよく見えていた。

御室から岩ガレの新山へ向かう。麓から眺める秀麗な山容とは異なる、活火山・鳥海山の荒々しい姿が目の前にあった。

岩ガレを登り始めて、巨岩を積み重ねた山頂部の大きさが実感された。

ガレ場に決まったルートはないので、白ペンキの矢印を見ながら足場を選んで登っていく。

段差の大きい岩場にきて嫁のペースが一気にダウン。

途中でストックをしまい、両手をつかって攀じ登った。みるみる高度が上がり、御室小屋が小さくなった。

平坦な岩場に出たが、新山の山頂はもう少し奥にあった。

岩塔の間から山頂にいる登山者の姿が見えた。

2つに割ったような岩壁の間をいったん下降する。アスレチックのようで楽しくなってきた。

山頂直下に出たら、大きな岩山を左に回り込むように登っていく。

11:05 鳥海山最高峰・新山(2,236m)に到着。順番待ちをして近くの男性に写真をお願いしたが、フレームに人が入らなくなるのを待って、構図ばっちりの写真を撮ってくれた。たまにこういう方がいるが、本当にありがたい。

少し下の岩場で休憩。山頂に登り詰めた後に湧き上がる爽快な気分は、何ものにも代えがたい。

北側には秋田平野と日本海。

東側の外輪山。一番高いところが七高山(しちこうざん)。

南東側の外輪山。右手前に見える岩峰の割れ目が登ってきたルート。

南西側の眺め。雲の向こうに庄内平野と海岸線が見える。

西側の眺め。雲海の先は広大な日本海。右に見えるのは隣に並ぶ山頂に近い高さの岩峰で、そちらにも登ってみた。

隣の岩峰から眺めた山頂。登山者は10人もいないが、狭い山頂は満員状態。

しばらく隣の岩峰で眺めを楽しんでいると、西側の雲海が切れて、外輪山から扇子森、御浜と続く稜線が見えてきた。

庄内平野と海岸線もよく見えるようになってきた。

秋田側の雲海もいつの間にか少なくなって、眼下に康新道コースがのびる断崖が見えてきた。

秋田平野と日本海。男鹿(おが)半島もかすかに見えてきた。眺めを楽しんでいると、あっという間に1時間が過ぎてしまった。

12:15 移動開始。復路は外輪山コースで下る。白ペンキの矢印に従い、まずは「胎内くぐり」と書かれた岩穴を通る。

岩穴を出たら足元に注意して岩ガレを下った。

道はあってないような岩ガレが続くので、歩きやすそうな場所を選んで、新山と外輪山の鞍部へ下る。

降りてきた岩場を振り返る。積み上がった岩ガレの壁は迫力満点。

鞍部付近に群生していたゴマノハグサ科のイワブクロ。

鞍部には雪渓が残っていた。

鞍部から外輪山を上り返す。

高度が上がると御室小屋から外輪山へ続くルートがよく見えた。

12:50 外輪山の稜線に出た。

登山道の脇にザックをデポして七高山へ向かった。

12:55 外輪山最高峰・七高山(2,229m)に到着。ちょうど団体が下山を始めたので人が少なくなった。

七高山から眺めた新山。

七高山の隣にある小ピーク。よい形なのでそこまで行ってみることにした。

小ピークには石碑がいくつか安置されていた。

割れた石碑もいくつか転がっていて、何と書かているかよく分からなかった。

小ピークから眺めた北側。康新道コースを下る人たちの姿が見えていた。

小ピークから少し下りたの先にも突き出た岩場がいくつかあった。

外輪山の西側(新山側)は断崖絶壁。

小ピークでしばらく眺めを楽しんでから七高山へ戻った。

誰もいなくなった七高山の真新しい山頂標と記念撮影して、13:10 移動再開。

外輪山の新山側は断崖絶壁がぐるりと続く。爆裂火口の縁が外輪山で、真ん中の新山は中央火口丘にあたる。

空中散歩のような外輪山の稜線歩き。湧き上がる雲海に富士山の御鉢巡りを思い出した。

デポしていたザックを回収。

次の外輪山・行者岳へ向かう。

外輪山の稜線から眺めた岩ガレの新山。南東側からは中央火口丘らしい半円形に見える。

眼下には御室の建物群。上から眺めると多くの建物があるとわかる。

気持ちのよい稜線歩きが続く。

梯子の手前に行者岳(2,159m)の道標があったので、梯子を登ったあたりが行者岳の山頂だろうか。

鳥海山に住むイヌワシか!? と思ったが、下から見た羽根の色合いからすると、どうもノスリのようだ。

行者岳を過ぎたあたりから眺めた新山と外輪山。

キキョウ科のイワギキョウ。

開放感抜群の稜線をどんどん下っていく。

つい先ほどまでいた新山が徐々に遠くなっていく。

眼下には千蛇谷コースを進む登山者の姿が点々と見えた。

14時近くになっても逆回りで外輪山を登ってくる団体ハイカーなどとすれ違ったが、時間とともに登山者の姿が少なくなってきた。

14:00 伏拝岳(ふしおがみだけ 2,130m)を通過。

花が茎の先だけにつくエゾオヤマリンドウ。

新山と外輪山。

日本海側から雲が広がって、西鳥海火山方面が見えなくなってきた。

眼下の稜線上を低い雲が流れていく。雲の流れが速くて景色が瞬時に変わる。

ハイマツ帯を入ると文殊岳はもう近い。

14:35 文殊岳に到着。14時を回って下山時刻が気になり始めたが、暗くなる前に下りれればよいと考え、のんびりすることにした。

文殊岳から眺めた鳥海山。

文殊岳から眺めた外輪山。

10分ほど休んで下山再開。まだ先は長い。

ガスが晴れて、眼下に西鳥海火山が一望できた。

外輪山の下りが長いので、徐々に体力が消耗を感じてきた。

嫁が山道脇に咲く花に気づいて「これは何?」と訊くので見てみると、鳥海山の固有種であるチョウカイフスマだった。

可憐に咲くナデシコ科のチョウカイフスマ。今回は見られないかなと思い始めていたので、とても嬉しい出会いだった。

チョウカイフスマを見られた喜びでしばらくは疲れを忘れた。

15:05 千蛇谷コースとの分岐を通過。

分岐を過ぎたところから御浜へ続くルートが見えた。まだまだ遠い。

しばらく木道を下る。

フウロソウ科のハクサンフウロ。へたり気味の花が多かったが、下山路でよい状態のものを何輪か見つけた。

15:15 七五三掛(しめかけ)を通過。ここからは往路で歩いた道となる。

上空を山形県警のヘリコプターが、しばらくの間、頭上を旋回しながら飛んでいた。何かを上から探しているように見えた。

七五三掛から扇子森の間は広々とした草原地となる。

御田ヶ原分岐から扇子森へゆるやかに上り返す。右太ももの裏が攣りそうになって、足がかなり疲労していることに気が付いた。御田ヶ原分岐から鳥海湖まわりで御浜に向かうことも考えたが、時間的にも厳しいと判断して断念した。

扇子森の山頂部から鳥海山を眺める。「御田ヶ原」の道標がピーク付近にあったが、扇子森の山頂部を御田ヶ原と呼ぶのか、下った御田ヶ原分岐あたりが御田ヶ原なのか、文献によって違うので調べても位置関係がよく分からなかった。

御浜小屋へ向かう。御浜の先に日本海が綺麗に見えた。

雲を映し出す鳥海湖と鍋森。

16:00 御浜小屋を通過。疲れた身体に鞭打って先へ進んだ。

御浜からはほとんど石畳の道となるが、疲労が蓄積されて終盤は足の裏が痛くなった。

ガスが切れて隠れていた稲倉岳が頭をのぞかせた。足を痛めて歩くのがつらそうな登山者を複数見かけたが、ロング・ルートと石畳の下りでダメージを受けたのではなかろうか。足が攣った人や歩けなくなった人を多数見かけた高妻山を思い出した。

陽が落ちてきて日本海が西日に輝き始めた。行きも帰りも逆光となったが、終日山歩きを楽しめた。

ぽつんと咲いていたウサギギク。

16:25 賽ノ河原を通過。下山は17時半として、暗くなる前に日帰り温泉に入りたいと思いながら先を急いだ。

早朝は濡れそぼっていたユキノシタ科のミヤマダイモンジソウ。

ユリ科のコバイケイソウ。

状態のよいニッコウキスゲもまだ残っていた。

バラ科の落葉低木、マルバシモツケ。葉の形からマルバ(丸葉)の名がある。

ひたすら下る。この後の移動が心配になるくらい全身に疲労を感じていた。

鉾立(象潟)登山口に到着。国民保養センターやビジターセンターにはまだ人の姿がちらほらあった。

17:35 1段下の駐車場に到着。この後、温泉保養センターあぽん西浜で汗を流してから月山8合目登山口へ向かった。