2017年9月10日 日曜日

西吾妻山

2,035 m

 前夜は道の駅裏磐梯で車中泊。少し肌寒くてなかなか寝付けなかったが、夜中は静かでそこそこ寝られた。4時起床。4時半前に移動を開始。白布峠登山口から登るつもりだったが、裏磐梯スカイバレーヒルクライム大会という自転車レース開催のため、白布峠の駐車場が全面駐車禁止になっていた。仕方がなく早稲沢登山口から入山したが、駐車場手前の林道は凸凹の砂利道で、想像以上の悪路に冷や冷やした。幸い早稲沢コースは整備されたばかりで道迷いのリスクはなかったものの、途中で熊に遭遇するハプニングに見舞われた。この日は雲の流れが激しくて天気はコロコロ変わったが、昼頃には晴れ間が多く見られるようになり、西吾妻山の山頂を踏んだ後、復路の西大巓(にしだいてん)では吾妻連峰、安達太良山、磐梯山と、福島の深田百名山が一望できた。下りは熊を警戒して笛を鳴らしながら歩いたが、今回は笛がとても役に立った。

 下山後は中瀬沼展望台に寄ってから帰路についた。高速道路は概ねスムーズに流れており、PAで一度だけ仮眠を取って21時に帰宅。最後は片付けが億劫になるほど疲れてしまったが、大満足のうちに1泊2日の福島遠征を終えた。

登山コースデータ
単純標高差 : 1,025 m
累積標高差 : 1,280 m
コース距離 : 12.2 km
標準コースタイム : 7 時間 10 分
歩行データ
総歩行時間 : 8 時間 20 分
総行動時間 : 10 時間 10 分

 コースタイム

早稲沢登山口P 5:55 ⇒ 探勝路分岐 6:35 ⇒ 9:25 西大巓 9:45 ⇒ 西吾妻山 10:50 ⇒ 11:05 天狗岩 11:20 ⇒ 11:30 西吾妻小屋 11:35 ⇒ 12:15 西大巓 13:25 ⇒ 探勝路分岐 15:35 ⇒ 早稲沢登山口P 16:05

 

5:30 早稲沢登山口Pに到着。15台ほどの舗装された駐車場でトイレ完備。手前の悪路とのギャップが酷い。

吾妻山は熊の目撃情報が多い。ここ数年、全国的に熊の事故が多いので、さすがに緊張感が高まる。

5:55 登山スタート。白布峠から早稲沢コースへ予定は変更となったが、コースタイムはさほど変わらない。

ユウガギク(柚香菊)。柚の香りがするのが名の由来。葉の形から判断したが、カントウヨメナ(関東嫁菜)かもしれない。

最初は沢沿いの広い道をゆるやかに上っていく。探勝路分岐までに渡渉が1箇所あった。

6:35 探勝路分岐を通過。デコ平方面への道を右に分けて進む。

キキョウ科のミヤマシャジン(深山沙参)。花柱が花冠からわずかに出て、幅広の萼は披針形で鋸歯がない。

一輪だけ咲いていたナデシコ科のセンジュガンピ(千手岩菲)。

分岐から数分で布滝に出た。水量は少な目で、岩に流れを阻まれて幾筋にも別れて落ちる段瀑だった。

登山道脇の立派なブナの木。ホオノキの大木なども目についた。

道迷いが多くて、あまり踏まれていないルートだが、歩いているうちに整備されたばかりであることに気が付いた。

笹などの下草が刈られているので、道迷いの危険性は少なくなっていたが、険しいコースであることに変わりはなかった。

渡りやすい地点を探して渡渉する。水量が少ない時は問題ないが、意外と深くて速いので増水時は渡るのが難しいと感じた。

周囲の笹は深いので、熊を警戒して気になる場所では笛を鳴らして進んでいたが、渓流沿いでサルの騒がしい鳴き声が進行方向から聞こえてきた。切迫感のある鳴き声がずっと続くので、何だろう? と気になり始めた時、明らかに違う獣の「グォゥ」という咆吼が聞こえ、2人同時に足を停めた。後ろを歩いていた私が前に出て様子を見ながら静かに進むと、対岸の笹やぶが激しく揺れるのが潅木の間から見えた。こりゃ熊だ、と直観し、どうする? どっちに進む? と周囲に目を走らせた瞬間、嫁が「クマだ!!」と叫んだ。視線を戻した時には熊の姿は見えなくなっていたが、嫁は笹原から跳び出た熊の顔までしっかり見たらしい。熊がいたと思われる笹やぶまでの距離は20mもなく、しばらく周囲の様子を伺ってから先へ進んだ。

熊を目撃した地点から少し進むと渡渉箇所に出た。何度か笛を鳴らして、ビクビクしながら渓流を渡った。

しばらくはイヤな感じの深い笹やぶが続いた。笛を頻繁に吹いて、何もいないことを確認しながら進んだ。

渓流から離れてしばらく上ると傾斜が増して急登となったが、この急坂が予想以上に長かった。

まだかまだかと思いつつ延々上りつめて、「9合目」の朽ちた看板を見た時は、まだなのかとがっかりした。

結局1時間以上急登は続き、傾斜がゆるくなってからも、なかなか着かなかった。

9:25 西大巓(1,982m)に到着。コースタイムを50分オーバー。早稲沢コースは想像以上に厳しかった。

コース上もっとも展望のよい西大巓だが、周囲は雲がかかって展望はきかなかった。東側に見えるはずの西吾妻山も雲の中。

南側の磐梯山もまったく見えなかったが、空は明るかったのでそのうち回復するのではないかという期待はあった。

少し長めの休憩後、9:45 西吾妻山へ向かった。

キキョウ科のツリガネニンジン(釣鐘人参)。秋に釣鐘状の小花が咲き、根の形が朝鮮人参に似ているのが名の由来。

キク科、ミヤマアキノキリンソウ(深山秋の麒麟草)。

花が散った後、花柱が伸びて綿毛状になったチングルマ(稚児車)。バラ科の常緑小低木。

東吾妻山で群生していたオヤマリンドウ(御山竜胆)が、西吾妻山でもよく目についた。

磐梯山でも見かけたウメバチソウ(梅鉢草)が群生していた。

鞍部まで下る間にも雲が流れて、西吾妻山の山頂部が見え隠れしていた。

花期は8月のウツギギク(兎菊)が一輪残っていた。

西大巓から見た時は上り返しがキツそうに思えたが、見た目よりも短かい上りだった。

オオシラビソの樹林帯を抜けると、池塘が点在する広々とした高層湿原に出た。

青空も広がってきて気持ちのよい木道歩きが続いた。

木道の分岐を右に折れて、なだらかな西吾妻山へ向かう。ちなみに北側にある白布温泉の天元台ロープウェイや、南側にあるグランデコ・スノーリゾートのパノラマゴンドラリフトを使えば、気楽に吾妻山最高峰の西吾妻山まで行ける。

南西側を見ると、池塘の先に西大巓の山頂部が見えた。急な天気の回復にテンションが上がった。

樹林帯に入ってしばらく進むと山頂はすぐだった。

10:50 西吾妻山(2,035m)に到着。順番待ちをして写真を撮ってもらった。

樹林に囲まれた狭い山頂は、みるみる登山者で一杯となった。写真を撮ったらすぐに天狗岩へ向かった。

前方に天狗岩のあるなだらかなピークを眺めながら、山頂北側のルートを下る。

天狗岩の左端に吾妻神社が見えた。

気持ちのよい木道歩きがしばらく続く。

途中、吾妻連峰の東側が見えた。左から烏帽子山、家形山、一切経山、前大巓、蓬莱山と継森が重なって、中央に東吾妻山、中吾妻山と吾妻連峰が続き、右奥には安達太良山。

先ほどまでいた南側の西吾妻山。東吾妻山は森林限界を超えているのに、それより標高の高い西吾妻山は超えていない。地形の違い等が理由なのだろうが、不思議だ。

11:05 天狗岩(2,005m)に到着。だだっぴろい岩ゴロの広場は蓼科山の山頂を思い出させる。西端の吾妻神社に目を向けると、背後から怪しげな積雲が湧き上がっていた。

天狗岩の西端にある吾妻神社(吾妻明神)。石垣に覆われて東側を向いている。大己貴神(おおなむちのかみ=大国主神)を主祭神に、日本武尊や菅原道真など50数柱を祀っている。

休憩しようと思ったら雨がポツポツ降ってきた。本降りになったら神社で雨宿りしようと思ったが、すぐに止んでくれた。

またいつ降り出すか分からないので、休憩もそこそこに 11:20 西吾妻小屋へ向かった。

ひっそり咲いていた小さなタテヤマリンドウ(立山竜胆)。

展望は得られなくてもいいから、とにかく雨だけはやめて欲しいと思いながら小屋へ急いだ。

11:30 西吾妻小屋に到着。かまぼこ型の2階建てで、近づくと案外大きかった。

トイレ完備の無人小屋だが、中で人が休んでいた。

西吾妻小屋まで来る間に天気が回復してきたので、そのまま西大巓へ向かった。

明らかな雨雲と思われた積雲はいつの間にか消えて、みるみる天気が回復してきた。

西大巓との鞍部に向かう途中で、磐梯山と猪苗代湖がくっきり見えた。

猪苗代湖と磐梯山。

樹林帯を抜けた南西側に西大巓が見えた。

鞍部から眺めた西大巓と磐梯山。この天気の好転は嬉しかった。

鞍部から上り返す。天気の回復に疲れも吹き飛んだ。

背後の北東側には西吾妻山。

空に向かうように山頂直下の急坂を上る。

12:15 西大巓に戻ってきた。南側には磐梯山と裏磐梯の湖沼群がばっちり見えていた。天気が変わらないうちにと、周囲の写真を撮った。

西方向。樹林の間に檜原湖が見える。

東側には西吾妻山。左端には中大巓と天狗岩。右奥には一切経山も見える。

南東方面。左に東吾妻山と中吾妻山、右には安達太良山。

リフトの最終(16:00)に合わせて天元台からの登山者は下りて行き、しばらくすると西大巓は貸切状態となった。

生き物のように湧いては形を変える雲が、西から東へどんどん流れて行った。

磐梯山と裏磐梯の湖沼群。予想外のコース変更を強いられた上に熊と遭遇し、変わりやすい天気にも翻弄されたが、結局は素晴らしい展望に恵まれた。

昨日登った磐梯山。一度登った山には格別な思いが生まれる。

左から鬼面山、箕輪山、鉄山、安達太良山、船明神山、和尚山と続く安達太良連峰。

東の吾妻連峰。左は西吾妻山、右には一切経山、東吾妻山、中吾妻山が並ぶ。吾妻山は、福島と山形の県境にある東西20km、南北10kmに及ぶ山々の総称で、標高1,900mを超える山が多数連なっている。

今回の福島遠征は素晴らしいものになったと思いながら、しばし至福の時を過ごした。

13:25 賑やかな3人組が登ってきたところで下山開始。

急坂をどんどん下りながら、このコースはやはりキツイと再認識した。

苔むした石の下りや熊のいそうな笹原を進む。下りでも笛を頻繁に鳴らした。

急坂の後は渡渉が2箇所。熊の目撃地点も無事に通過。

渓流沿いの道を進む。踏み跡が残らないような岩ゴロが続くので、周囲の下草が刈られていなければ、迷いそうな場所だ。

15:35 探勝路分岐を通過。最後の渡渉をクリアする。

16:05 駐車場に到着。少し手前でトレラン風の方に抜かれたが、早稲沢・西大巓間で遭遇した唯一の登山者だった。

16:55 帰りの道すがら中瀬沼展望台に寄った。駐車場から徒歩10分だが、ヤブ蚊が多くて小走りで展望台へ向かった。

5分少々で展望台に到着。ヤブ蚊の襲撃が凄まじいので、写真を撮ってすぐに退散した。

裏磐梯側からは山体崩壊した荒々しい磐梯山が望める。磐梯山、吾妻連峰、安達太良山とそれぞれに特徴を持った名峰がそう遠くない位置にそびえ立ち、麓には裏磐梯の美しい湖沼群や雄大な猪苗代湖がある。この辺りは日本有数の景勝地だとあらためて実感した。車内に戻るとヤブ蚊が4匹入り込んでいて、全部始末するまで出発できなかった。2人とも首や背中を10箇所近く刺されており、持参したキンカンが大変役に立った。最後まで色々あったが、記憶に残る遠征登山となった。