田中康弘 「女猟師」

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本書「女猟師」について

本書は、マタギ文化に造詣が深く、「山怪」の著者としても知られる田中康弘氏が、五人の女性猟師を取材して、その内容をまとめたものです。

副題に「わたしが猟師になったワケ」とあるとおり、狩猟の世界は伝統的に男社会という見方から女性にスポットを当てたものです。

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感想あれこれ

武重謙の「山のクジラを獲りたくて」とは異なり、猟師自身が書いているのではなく、取材方法もよい意味でゆるいというか、和気あいあいと狩猟現場に参加させてもらうというスタイルで、見学しているような距離感で現場の状況が伝わってきました。

勢子や猟犬が追って、配置された射手が仕留める集団での狩りの様子や、その後の処理、祝会の様子など、分析的な視線ではなく、淡々と状況が語られます。普通の生活の延長上に狩猟があり、そこでは狩猟を通じたコミュニティが存在していることがよく伝わってきました。特別な世界ではなく、田舎暮らしのひとつの形として、女性が猟師をしているわけで、著者はごく自然にそれぞれの生活スタイルにもスポットを当てています。

必ずしも猟師の内面に迫るようなものではありませんが、相手や相手の生活に対する敬意や尊重が伝わる筆致で、著者の人柄が感じられます。作者のこだわりだと感じましたが、取材対象の女性や、狩猟仲間の集団写真に笑顔が多くて、読後感を一段よいものにしてくれました。

終章では、地方における獣類による人的被害や農業被害の激増についても語られており、衰えゆく狩猟文化の担うべき役割について、著者の考えが示唆されています。

ちなみに、獲った獲物を解体している写真が意外と多くて興味深く拝見しました。なんでも自分でやってみたい方なので、解体方法を学びたい気持ちはあるのですが、川が血で染まる一枚を見て、とても無理だと自覚しました。(血を見るのは苦手なのです)

著者のマタギについて書いた本も、そのうち読んでみたいと思います。

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