中古物件購入③ 検査済証問題について

目次

検査済証の問題を知ったきっかけ

中古物件購入を決めて、仲介会社の事務所で重要事項の説明を受けた際、「検査済証は当初の建主さんが紛失してしまってありませんが、川越の方に代わりになる書類が登録されています」というような説明がさらりとなされた。気にしていなかったが、ちょっと引っかかっていたので記憶には残っていた。

後日、住宅ローン申込に必要な書類を調べてみると、どこの金融機関でも検査済証の提出が求められていることを知り、さらに詳しく調べてみると、2003年 (平成15) に国土交通省から各金融機関に対して「完了検査に基づく検査済証のない建築物への住宅ローン融資を控えるように」といった要請がなされ、中古住宅の場合、金融機関は検査済証の提出を住宅ローン審査の要件していることを知った。

すでに手付金を払っていたため、これには正直あせった。随分昔ではあるが、銀行に就職する際、必要になるだろうと宅地建物取引主任者試験をクリアしていたので、不動産関連の知識には多少覚えがあると自負していたが、昨今のローン審査で検査済証が提出書類に含まれていると知らなかった。

その後、検査済証の代わりになるものとして「台帳記載事項証明書」があると知り、実際に川越建築安全センターで購入する物件の台帳記載事項証明書を取得できたが、そこに至るまで随分時間がかかった。

銀行のローン窓口での拍子抜けするような対応も含めて、何が問題なのかを明らかにしておきたいし、誰かの役に立つかもしれないので一連の経緯や調べたことを記しておきたいと思う。

建築確認済証&検査済証とは

家を建てる時には、建築物の安全性などを担保するために、その建物が建築基準法などの法令に適合しているか各段階でチェックを受けて、すべての審査をクリアする必要がある。

まず、建物の設計段階で建築基準法などの規定に適合しているかどうか調べることを建築確認といい、これは工事着工前に行われるもので、この建築確認をクリアした物件に交付されるのが「建築確認済証」である。

次に、工事完了後、設計通りに建物が建てられているかどうか完了検査が行われ、検査をクリアした物件に対して「検査済証」が交付される。

ちなみに、木造3階建てや鉄筋鉄骨造、あるいは鉄筋コンクリート造など、一定規模の建物については、工事中に中間検査を受けて、「中間検査合格証」を交付してもらう必要がある。

上記の検査は、建築主が申請して、自治体 (市町村などの行政) や自治体から指定を受けた民間の検査機関が行う。通常は建築主に代わって設計事務所や施工会社が申請を行い、交付された建築確認済証や検査済証は、建物の引き渡し時に建築主の手に渡る。

中古物件購入時に検査済証がないという問題

中古物件を探していると、検査済証がない物件が多いことに気付く。実際、私が購入予定の物件も検査済証がなかったわけだが、国土交通省の資料によると、1998年度の完了検査率(検査済証交付件数/建築確認件数)は38%となっており、かつては5%〜20%程度だったともいわれている。
つまり、ひと昔前は検査済証を取得している方が少数派だったのだ。

普通の感覚であれば、建物の設計に安全上の問題がなく、その設計通りに建物が施工されていることを証明する建築確認済証や検査済証は、あって当然だと思うが、これがないとはどういうことか。

検査済証がない場合には、大きくわけて、①建築確認済証と検査済証を紛失したケースと、②そもそも検査済証を取っていないケースがある。

①については、建築主が検査済証の保管を重要視していなかったことが考えられる。物件は引渡し時に検査済であることさえ確認できればよいわけだし、住宅ローンの提出書類に含まれていなかったのだから、物件を売買する時も検査済証は問題とならない。

②については、いくつかの理由が考えられる。Ⓐ 建築確認は、建物を建てるときに必要なのできちんと手続きをするが、完了検査については工事完了後にわざわざ手間と費用をかけたくなかった。
あるいは、Ⓑ 建築確認申請が通った後に、建築主の依頼で設計を変更して大きな建物を建てるような場合があり、違法建築が発覚する完了検査を故意に受けなかった。
売り物件でたまに目にする「建ぺい率・容積率超過」というのは、Ⓑ のような事情で建てられたものと思われる。

また、インターネットの発達していなかった昭和の時代は、人の紹介や地元の知っている業者ということで建築主は施工会社を選んでいただろうから、建築主と施工会社の間には一定の信頼関係があって、行政による完了検査は必要のないことだと考えられていたのかもしれない。

いずれにしても、検査済証の取得率の低さからは、検査済証があまり重要視されてこなかったことがうかがえるが、上述した2003年に国土交通省から各金融機関に対する要請で流れが変わり、2005年の耐震偽装事件をきっかけに、検査済証の取得率は一気に上昇することになった。
2007年(平成19年)には「建築確認申請の厳格化」などがなされ、完了検査をきちんと受けて検査済証を交付してもらうのは必須になったと言えるだろう。

そうした経緯があって、金融機関は住宅ローン審査の提出書類に検査済証を明記するようになったようだが、実際には検査済証のない中古物件が多数あるわけで、厳格に運用した場合、そうした物件は住宅ローンが組めないという問題が出てきたのだ。

検査済証がない場合はどうすればよいか ?

検査済証がない場合の対応は、① 検査済証は取得していたが、紛失してない場合と、② そもそも完了検査を受けておらず、当初から検査済証がない場合に分けられる。

① 検査済証は取得していたが、紛失してない場合

一度紛失した建築確認証や検査済証が再発行されることはない。しかし、それらを交付した自治体 (市町村役場) の台帳(建築確認台帳)には、建築確認済証や検査済証の番号や交付年月日が記載されており、その記録を「台帳記載事項証明書」として取得することができる。

この「台帳記載事項証明書」は、検査済証を実際に交付したという証明となるので、住宅ローン審査に必要な検査済証の代わりになりえる。

実際に台帳記載事項証明書を取得してきたよ

実際に私も購入物件のある地域の申請窓口が川越建築安全センターであることを調べて、台帳記載事項証明書を取得してきたが、比較的簡単に取ることができた。

まず川越建築安全センターへ電話して、登記簿上の地名地番と建築年度を伝えると、すぐに証明書があるか否かを教えてくれた。証明書を取りに行く日時を聞かれたので、これから行くと伝えてすぐに出向いた。
フェスタ川越の地下に車を停めて、川越建築安全センターのある公共施設棟4階へ。長い廊下の先に建築安全センターの一室にがあり、その窓口で申請書類に記入。同じフロアの別室で購入した400円の印紙を貼り付けて提出すると、ものの数分で台帳記載事項証明書が交付された。小さな窓口に他のお客さんは1人しかおらず、ひっそりとしたものだった。

② 完了検査を受けておらず、当初から検査済証がない場合

完了検査を受けていない場合、検査済証が交付されていないわけだから、上記の台帳記載事項証明書を取ることができないが、この場合の救済策として、国土交通省が2014年にガイドラインを策定している。

それによると、建築当時の確認済証や設計図書などの竣工図書があればそれらを利用して現地調査を実施するが、 確認済証や設計図書などが残っていない場合は、建築士が「復元図書」と呼ばれるものを作成する。

次に、建築当時の書類や復元図書を元に現地調査を行い、最終的に「建築基準法適合状況調査報告書」を作成する。この報告書が検査済証の代用となる。

ちなみに、確認済証や設計図書が残っていない場合に必要となる「復元図書」の作成には、かなりの時間と費用がかかると予想されるので、救済策のハードルはかなり高いと言える。

検査済証がない物件に対する実際の銀行窓口の対応

住宅ローンの提出書類に検査済証が明記されているため、私は審査自体が受けられないのではないかと危惧していたが、検査済証がないことを窓口で告げたときに、「検査済証がなくても審査は受けられますよ」とあっさり返答された。

代わりになる書類として台帳記載事項証明書があることを告げたときも、「ではそれも提出して下さい」と言われ、印象としては、絶対必要どころか、それほど重視されていないのではないかとすら感じた。

一方で、渡された書類の中に「有担保ローンのお申込みにあたってのお願い」と書かれた1枚のA4用紙があり、内容の半分以上が、検査済証の提出が必要であることの説明に当てられていた。

私が感じた検査済証に関する実態

私が単純に感じたのは、国土交通省から金融機関になされた通達によって、検査済証は必要とされているが、それは建前であって、ある程度古い物件については検査済証がなくても支障はないということです。

住宅ローンの対象物件が違法建築であれば、当然ローン審査は通らないわけだが、銀行側は違法建築かどうかの判断を、検査済証の有無で判断してはいないということだろう。

そもそも、行政による中間検査や完了検査はごく簡易なものだと聞くし、手間やコストから言っても大がかりな検査ができるわけもない。その上、検査済証の交付後に増改築をすることは可能であって、検査済証の有無で違法建築かどうかを判断することはできない。考えてみれば当然のことだ。

結論としては、住宅ローンにおける検査済証の有無は、建前としては問題だが、実質的には大した問題ではない、ということではなかろうか。

国土交通省としては、違法建築を減らすためのひとつの方策として「検査済証のない物件への融資を控えよ」と要請したのだろうが、安易かつ乱暴なやり方であったと思わざるを得ない。

ただ、現在の完了検査の取得率は9割を超えているようなので、完了検査を実施はすることによって違法建築を減らすという目的はある程度達成されたのだろう。

また、建前は別として、銀行側が古い中古物件に対するローン案件について、実際には検査済証の有無を審査要件としていないのであれば、弊害も少ないと言える。

焦って色々調べまわり、台帳記載事項証明書をすぐ取り行ったりして、どうも銀行側の建前に振り回された形だが、勉強にはなった。また、現場に疎い非効率なお役所に対して、建前と本音をもってしたたかに対応する民間業者という構図を見た気がして興味深かった。

長々と書いてきたが、上述したことは私の主観的な見方に過ぎず、検査済証の扱いが実際にはどうなっているか、本当のところは分からない。

  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次