支払約定書に記された「ローン代行手数料」は11万円 !!
中古物件の購入を決めて諸々の手続きのために仲介会社を訪れた際、不動産仲介会社から金融機関2社の住宅ローンを勧められた。
普段使っている銀行に自分で住宅ローンを申し込みしますとお断りをしたが、「念のための保険として、同時平行で事前審査の申込だけはしておきましょう」と言うので、用意されていた書類にサインはしておいた。
重要事項の説明や手付金の支払いを終えた後、仲介手数料の支払約定書を渡されたが、その明細に「住宅ローン代行手数料」の名目があり、金額は11万円となっていた。
もちろん、自分で住宅ローンの手続きをして、無事に本審査も通れば発生しない手数料だが、仲介会社に手続きをお願いすると、こんなに取られるのかと少なからず驚いた。
気になって色々調べてみると、不動産業界の悪い慣習であることが分かってきた。
そもそも住宅ローン代行とは?
住宅ローン代行とは、不動産の仲介会社が代行手数料をもらって、物件の買主に代わって住宅ローンの借入手続きを行うことである。代行手数料は、ほとんど仲介会社の言い値であって、3万~10万円前後が多いようだ。
住宅ローンの手続きは、①事前審査、②本審査、③金銭消費貸借契約、④住宅ローン実行 と進むが、ローン代行の中身は、①の際に本人が記入した書類を銀行に持ち込むことと、②の際に必要となる住民票や課税証明書、登記事項証明書 (登記簿謄本) などを代理人として揃え、本人記入の申込書と共に銀行に持ち込みすることである。③と④については、本人の手続きが必須であって代行はできない。
住宅ローン代行に関する法的解釈について
金融庁の法的解釈
住宅ローンの媒介行為については、2015年 (平成27) に金融庁の法的解釈が発表されている。
① 「金銭の貸借の媒介」を業として行うためには、貸金業の登録を受けなければならない。
② 住宅ローン等の貸付主体が銀行であり、かつ銀行のために当該貸付(手形の割引を含む)に係る契約の締結の代理又は媒介を行う場合には、銀行代理業の許可を得る必要がある。
すなわち、商売として顧客から住宅ローン代行料をもらう場合は、貸金業登録か、銀行代理業の許可を内閣総理大臣からもらう必要があると示しているわけで、それがない場合は、違法である疑いもあるということだ。
そもそも、宅地建物取引業者 (不動産屋) が宅地又は建物の売買等に関して受け取ることができる報酬の額は、法律によって細かく規定されており、その他の報酬の受領は禁止されているわけで、金融庁の発表はそれに符合するものである。
国土交通省のガイドライン
一方、国土交通省が発表しているガイドライン「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」の第46条第1項関係の最後に次のような記述がある。
6 不動産取引に関連する他の業務に係る報酬について
国土交通省ガイドライン「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」
宅地建物取引業者が、「第三十四の二関係7」に従って、媒介業務以外の不動産取引に関連する業務を行う場合には、媒介業務に係る報酬とは別に当該業務に係る報酬を受けることができるが、この場合にも、あらかじめ業務内容に応じた料金設定をするなど、報酬額の明確化を図ること
これによると、住宅ローン代行を媒介業務以外の業務だとすれば、明確な報酬額さえ提示していれば、それに見合う報酬を受け取っても問題ないということになる。
仲介会社が住宅ローン代行料を取るのは、この記述に法的根拠を見出しているのかもしれない。
東京都庁の見解
ちなみに、たまたま見つけたネット記事によると、東京都庁は次のような見解を示しているようだ。(信憑性は分からない)
住宅ローンのあっせん自体は不動産会社として当然の業務であり、代行手数料を請求するべきではない。そもそも仲介手数料を上限(成約価格×3%+6万円+消費税)で請求しているのであれば、その他の手数料は超過報酬にあたる。
その記事によると、東京都は、不動産会社が規定報酬額の上限を請求しているのであれば、住宅ローン代行手数料を別途請求すべきではないと考えており、ローン代行手数料の相談があった場合は、超過分にあたる報酬を返却するように指導しているらしい。
提携ローンについて
一般的な住宅ローンの他に、提携ローンと呼ばれるものがある。これは金融機関が不動産会社やハウスメーカーなどと提携して、提携した物件の購入者を対象に取扱いをするローンのことである。
提携ローンでは、対象物件の審査がすでに済んでいることから、通常よりも手続きが簡略化されており、審査期間も短くて済む。提携会社がローン手続きの代行などをしてくれる利便性がある上に、通常のローンよりも金利が低く設定されている場合もある。
こうした提携ローンの場合、不動産会社が手続きを代行してくれるので、ローン代行手数料がかかるのもやむなしと考えられるが、仲介業者が勝手に提携ローンだと言っているだけの場合もあるらしいので、本当に提携ローンなのかどうかをしっかり調べる必要がある。
ちなみに、提携ローンには一般企業と銀行が提携しているケースもある。この場合、金融機関は提携企業の社員向けに、ローンの優遇金利や保証料割引などを用意しているが、代行手数料が問題になることはない。
住宅ローンは自分で申し込むべき
私の場合、住宅ローンの申請は自分でするものだと思っていたし、実際に自分で手続きしたわけだが、今回ローン代行手数料の法的根拠などを調べてみて、ますます住宅ローンは自分で申し込むべきとの思いを強くした。
まず住宅ローンの申し込みはそんなに難しいことではない
各金融機関が用意している住宅ローンの大きな違いは金利と各種手数料、審査にかかる日数くらいのもので、専門家しか判断できないようなことはなく、どの金融機関を選ぶかも、それほど難しい話ではない。
実際の手続きについても、1日有給休暇を取れば、必要書類を集めることは可能だ。午前中に役所で住民票と印鑑証明、課税証明書などを取り、午後に一番近くの地方法務局で登記事項証明書などの公的書類を取ればよい。
ローン申込はネット申請という手段もあるし、金融機関の店舗で手続きをする場合も、必要書類が揃っていれば、一度で済む。窓口の担当者の説明を聞いて、指示どおりに必要事項を記入すればよいのだから、難しいことは何もない。
誰が手続きをしても審査に影響はない
セールストークとして、仲介会社から申し込んだ方が審査に通りやすいなどと言われる場合もあるだろうが、誰が手続きしても保証会社の審査に変わりはなく、審査に仲介会社等が影響を及ぼすことはない。
いくつもの金融機関に持ち込みして、やっと審査が通る場合もあるかもしれないが、その場合は返済計画や対象物件に問題がある可能性があり、物件購入自体を見直した方が無難かもしれない。
そもそも代行手数料が高すぎるし、通常業務ではないのか
ローンの申請に専門知識はいらないし、実際の手間からすると代行手数料の相場は明らかに高すぎる。
そもそも住宅物件購入にローンを組まない人はほとんどいないのだから、住宅ローンに関する手続きも物件購入時の通常業務として仲介手数料に含まれるべきではなかろうか。
急激に進む情報化社会にあって悪しき慣習を維持することには無理があるわけで、私としては代行料なしにローン申請手続きを助けてくれる良心的な仲介会社が増えることを期待したい。
大事なことは人任せにしない方がよい
高い買い物をして長期間の支払いを続けていく契約をするのに、人任せでよいはずがない。
やたらと高い代行手数料を払うくらいなら、きちんと時間を割いて自分で住宅ローンの申請をするべきだし、必要なことはしっかり調べて、返済を含めた資金計画に無理がないか金融機関と相談しつつ事を進めるべきだろう。
ちなみに、住宅ローンの本審査に通った後で、仲介会社の担当者に代行手数料について確認したところ、「もちろんローン代行手数料はかかりません」とのことだった。ローンの代行を断った時もあっさりしたものだったし、積極的に手数料を取ろうというより、取れたら取ろうというスタンスなのだろう。